機械学習(ML)は、今後10年間において最も重要な汎用性の高い技術となる勢いを見せている。この数年でも、GoogleのCEOが「人類にとって火の発見にも勝る発明だ」と評したり、機械学習の先駆者の一人であるAndrew Ng氏から「電気の発明に匹敵する」と称されたりするなど、絶大な期待が寄せられている。機械学習は日本のビジネスに即座に適用可能な人工知能の一分野である。機械学習の根幹は、ラベル付けしたデータ(データ単体ではなく、そのデータの意味の説明が付与されたもの)を使って予測モデルを訓練し、より正確な予測を得るというものである。そうした予測は、数値、画像、テキストに適用できる。データから知見を導き出すということではなく、予測を自動化するという点で、従来のデータサイエンスと比べてより強力である。
ここ数年で機械学習は指数関数的とも言うべき飛躍的な発展を見せたが、その理由はいくつかある。例えば、 非構造化データ(画像、音声、テキスト)が急激に増大したことや、 GitHubなどのオープンソースのリポジトリの普及により、誰もがあらゆる機械学習アルゴリズムを利用できるようになったことが挙げられる。また、Amazon Web Service(AWS)やGoogle Cloud、MicrosoftのAzureなどのプラットフォーム上で事前に訓練されたモデルやサービスを容易に利用できるようになったことや、これらのモデルを訓練、実行できる安価なクラウドコンピューティングが成長し続けていること、CourseraやUdacityといったプラットフォーム上で機械学習の知識をその「開発者たち」から無料で学べることも、機械学習の急速な発展理由に挙げられる。過去数年間、こうした条件が完璧な形で融合したことで、この機械学習領域全体が一から生み出されたのである。
日本は、従来のIF-THENルールを使用してアプリケーションロジックを制御する代わりに、将来の全アプリケーションの中心に機械学習を据えることで、他国を追い越せる可能性がある。しかしながら、この機械学習の技術がどういうものであるか、これによって何が実現できるのかについては、しばしば不明確であることが多い。そこで本章は、それらを明確化し、実践への道筋を付けることを目的とする。本白書では、従来の機械学習とそのサブ領域であるディープラーニングを用いた多くのユースケースについて紹介していく。
AIや機械学習による仕事の自動化の促進や、それに伴う雇用の喪失については、様々に喧伝されている。しかし、そこには留意すべき事柄がある。AIと機械学習の主な適用対象は、仕事全体ではなく、その一部である特定の「タスク」という点である。最も有効な自動化の例は、人間には困難でもコンピューターには容易な、連続する個別の動作を自動化するケースである。例えば、何千個もの商品のそれぞれに価格を付けたり、何万枚もの製品が写った画像に欠陥品が含まれているかを特定するタスクなどである。一方、仕事全体を自動化するとなると、難易度が上がる。それでも例えば、高速道路のA地点からB地点までトラックを運転するといったように、将来的に完全な自動化が見込まれる仕事もあり、そのような仕事の従事者には、新しいスキルの習得が求められるだろう。ただし、人間の頭脳はそれ自体がある種のスーパーコンピューターであり、何でも学習出来て、未だにどんな技術革新をもってしても複製されていないような代物なのだから、新しいスキルの習得は容易ではないが不可能ではないだろう。最後に、コンピューターには答えを提供する能力は備わっていても問いを提示する能力は未だに備わっておらず、そうした状況が続く限り、創造性という点で人間の優位性は変わらないということも留意しておくべきだろう。
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