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5Gインフラストラクチャと通信

Updated: Feb 1

定義、創出できる価値

5Gはモバイル通信ネットワークの第5 世代技術規格である。2008年から開発が進められ、2019年に世界各地で展開が始まった。この技術によってモバイル通信ネットワークの能力は飛躍的に進歩し、4Gとの比較で言えば、遅延化が低減し、帯域幅は最大で十倍の拡大が、端末接続台数は最大で千倍の増大がそれぞれ見込まれている。5Gの実力が最大限に発揮された場合、ダウンロード速度は毎秒10ギガビットとなり、現行のWi-Fi能力を大きく上回ることになる。


5Gを活用した3つの主要シナリオを実現するにあたって鍵となるのは、低遅延、帯域幅、端末接続密度の向上である。

  • 高速大容量(eMBB)は、広域化するネットワーク領域においても高いデータ伝送速度を可能にし、インターネットの一層の高速化や、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)を活用した斬新な体験を提供する。

  • 大量端末接続(mMTC)は、膨大な台数の端末接続を可能にし、スマートホーム、スマートビルディング、スマートシティなどの構想を後押しする。

  • 超高信頼・低遅延通信(uRLLC)は、端末間のシームレスな通信を可能にし、工業生産の自動化、コネクテッドカー、その他の産業における重要な適用事例の実現に寄与する。


5Gの第一義的なインパクトは、接続可能な端末数や消費データ量を著しく増大できることである。中央のプラットフォームにデータを送信する端末数が増えることで、より精度の高い知見を創出できるようになる。対して端末側では、より複雑な指示をより頻繁に受信できるようになり、「エッジインテリジェンス」としての機能を十分に果たせるようになる。このように高密度の情報交換が行われるようになれば、家、ビル、都市、車の広範な制御が可能となり、スマート化が一層促進されることだろう。


日本は世界の5G技術の先駆者に仲間入りする体制を整えつつあり、今後利用可能エリアやサービス範囲が拡大され、スマートフォンを含め5G対応の端末が増えれば、急速に普及する可能性が極めて高い。予想では、2020年末までに全都道府県で5Gが利用できるようになり、2024年には全通信事業者を合わせた全国の5Gカバー率が98%に達する見込みである。


現況

5G市場は2020年に立ち上がり始め、WCIS(世界携帯電話情報サービス)によれば、5Gの加入者数は世界全体で1600万人となっている(4G加入者は52億人)。これら1600万人の内、中国と韓国が1500万人を占めているが、現在5G市場を本格的に展開している国はこの2ヵ国しかない。日本では2020年3月に最初の5Gサービスが開始され、初期の加入者数は2万人だった(既存の4G加入者は1億5000万人)。


5Gが提供する3つの主要サービス(eMBB、uRLLC、およびmMTC)の内、 eMBB(高速大容量)は、本白書の刊行時点で既に実用化されており、新規価値の創出に寄与している。韓国では、高画質のスポーツ中継、マルチライブ形式のカラオケ、有名なキャラクターやポップスターが登場するARベースのゲームなどB2C向けのサービスがいくつか開始され、5Gへの興味が高まっている。



コネクテッドビルディング: デジタルインドアシステムは、空気質の監視、エネルギー消費のスマート化、ビルの防犯、予知保全、インテリジェントパーキングなど様々な技術で構成されている。こうしたシナリオを実現するには、Wi-Fiネットワークの対応能力を超える多数の端末接続を必要とするが、5Gなら十分な接続能力を提供できる。また、住居用ビル、製造工場、あるいは大規模な工場群などの建物管理システム(BMS)の場合も、中央の管理ポイントに多くのセンサーを接続する必要があるが、ネットワークの接続能力や帯域幅が向上すれば、クラウドベースのサービスへのデータ転送やアクセスも難なく行えるようになる。中国では、世界最大の白物家電メーカーであるHaier(海爾集団)が、GSMA、China Mobile(中国移動)、Huawei(華為)と共同で5G駆動工場の実証実験を行っている。その際、組立ラインのロボットアーム間で大量の画像データを相互転送するのに5Gネットワークが使用されている。


自動車: 自動車産業では、5Gネットワークの信頼性の高さが消費者と企業双方のユースケースにとって革新的ソリューションの基盤となる。今日、道路上の輸送や倉庫内の作業に自動走行車が普及しつつあるが、5Gによって車両群との詳細情報の送受信が常時可能になれば、安全性の向上や遅延の減少がさらに進展する。一方、自動車内では高速の5G接続で外部接続された車内のWi-Fiネットワークを介して車載インフォテインメント(情報+娯楽)が提供されるだろう。本書の執筆時点では、Baidu(百度)が5G接続による無人自動車を使ったロボタクシーサービス(商標はApollo)の実証実験を開始している。


小売: 店舗の高度化、サプライチェーン管理の効率化、顧客体験の個別対応化が進む。5Gには小売の形態を刷新する可能性が秘められている。現在、運用面で実現の可能性が視野に入っているのは、5G接続されたIoT機器でサプライチェーンの状況を追跡ながら店内在庫を常時監視する、AI管理による無人の「自律型店舗」である。消費者の方でも、AR(拡張現実)を適用した「マジックミラー」を使って店や自宅で衣服の試着が楽しめるといった新しい経験が可能になるだろう。


ヘルスケア: 遠隔医療や遠隔モニタリングなどヘルスケア分野での5G活用に対する期待は大きく、AR/VRを活用した臨床実習の可能性も提起されている。遠隔医療を実現するには患者の状況をリアルタイムで伝える高品質ビデオが必要となるが、eMMB(高速大容量)を特徴とする5Gであれば病院のネットワークに負担をかけることなくそうした環境を実現できる。医療に特化したモノのインターネット(IoMT)は、病院のコストを軽減する可能性があり、既に医療機関は予防医療や患者の遠隔モニタリングを可能にするウェアラブル機器を活用したソリューションに注目し始めている。例えば、 Nokiaは中国の鄭州大学第一附属病院と提携し、モバイルによる病室回診や看護といった病院内のユースケースや、病院間あるいは病院と家庭間での遠隔による医療相談や治療などの可能性を探求している。


メディアとエンタメ: eMMB(高速大容量)によって、外出先、自宅を問わず高品質メディアが楽しめるようになる他、車載エンターテインメント、3Dホログラフィックディスプレイ、AR(拡張現実)といった新たなメディア形態の拡大も期待される。他にも、モバイル広告の形態が多様化し、ゲーム内メッセージやユーザー位置に基づくAR駆動メッセージなどが登場するだろう。例えば、韓国のSK Telecom は2019年に、仁川SKハッピードリームパークでのプロ野球開幕初日に自社の先駆的なAR技術の披露し、バックスクリーンの大型ディスプレイや観客のスマートフォンを介して球場の真ん中にドラゴンの映像を出現させている。


ホーム自動化: mMTC(大量端末接続)によってより多くの端末を自動化かつシームレスに相互接続することが可能になり、スマートホームの採用が促進されるだろう。5Gの無線ネットワークが相互運用性の共通プラットフォームとなると期待される一方で、高速化と低遅延化がAI音声アシスタントを含むシームレスなスマートホーム体験を実現するだろう。


今後の技術発展の方向性

世界各地で5Gの展開や計画が進行中であり、2022年末までに5Gの展開を予定している携帯電話事業者は世界全体で92%に及んでいる。


5Gの周波数割り当てが40ヵ国以上で実施されており、2020年末までにさらに約30ヵ国が追随すると見込まれている。周波数のオークションが一段落した後には、ヨーロッパとアジア太平洋地域でネットワークへの投資が加速化されることが予想される。


しかしながら5Gの展開が順調に進んでいるとは言いがたく、システム面と地域固有の両方の障壁に直面している国も少なくない。システム面で言えば、新型コロナ感染症のパンデミックが一部の国で5Gの普及を遅らせる要因となっている。加えて、McKinseyが世界の通信事業者に行った調査からは、地政学的な不確実性のために計画が半年かそれ以上遅れそうだと懸念していることが明らかになっている。通信事業者の投資能力は地域によって差があり、特にヨーロッパでは重要なインフラ投資が遅れる可能性がある。


mMTC (大量端末接続)とuRLLC (超高信頼・低遅延通信)は、IoTを大規模展開するための鍵となる技術と見られているが、まだ広く運用される段階には至っていない。Ericssonは健康関連のウェアラブルやホームセンサーといった5Gの消費者向けユースケースが主流になるのは5Gの展開から2、3年以内と予想している。


5Gネットワークの安全性を確保するツールとソリューションも技術スタック全体で進化し続けるだろう。5Gネットワークの所有者はトラフィックを常時リアルタイムで可視化し、トラフィックに潜むサイバーセキュリティの脅威をリアルタイムで検出、遮断する能力を持つことが不可欠となる。また、機器やユーザーの認証、機密性や重要度に基づくアクセス管理、ネットワークのセグメント化、堅牢なコンテナ化も重要事項である。クラウドネイティブな5Gのコアネットワークと分散化されたエッジの両方に対して、一貫性のあるセキュリティ強化を提供する企業としては、Palo Alto Networksなどがある。同社は2020年に、高度に分散化されたクラウドネイティブ5Gネットワーク向けに最高レベルの粒度のセキュリティを提供する業界初の5Gネイティブセキュリティソリューションを発表した。このソリューションには、5G向けセキュリティのコンテナ化、5Gの識別子と脅威のリアルタイムの相関付け、5Gネットワークスライシング向けセキュリティなどが含まれている。


将来の主要な適用事例

消費者向けについて言えば、過去における3Gと4Gの状況から見て、日本は世界の中でも5Gの広範な普及が最も早期に達成される国の1つになると予想できる。5G対応のスマートフォンが購入できるようになれば、特別な機能や価格面のインセンティブがなくても、消費者はこの新規ネットワークをほどなくして受け入れると思われる。さらに仮想移動体通信事業者(MVNO)がコストの低減化に努めれば、5Gを利用する消費者層も広がるだろう。国内に無線設備を提供する強力な企業が存在することも、5Gの展開に地政学的な不確実性がもたらすリスクを無縁なものにしている。


産業向けに関しても、日本は5Gを新規に適用する準備が十分に整っている。プライベート周波数は、既にオークションを通じて様々な企業に割り当てられており、その1社である三菱電機は2020年に実証実験を開始している。


5Gの適用が最大の価値をもたらすと想定される産業分野は2つある。1つは国内の基幹産業であり、もう1つは国際市場向けの比重が大きい産業である。


前者のカテゴリーで大きな可能性があるのは、鉄道や建設における効率性や安全性の改善である。5Gの能力を鉄道に活用すれば、列車の運行や線路の監視制御が遠隔で行えるようになるだろう。運転手にとっては事故管理の可視性が向上し、また複数の列車を同時に操作することも可能になるかもしれない。そうすれば、利用率の低い路線であっても運行コストを大幅に削減することができる。2019年にドコモとJR東海は世界に先駆けて、高速走行する新幹線と地上基地局間での5G無線通信を成功させている。


建設分野では、5G接続によって、クレーン、バックホー、クローラーダンプなどの建設機械の利用効率が高められ、大幅なコスト節減が見込まれる。これらの建設機械は現場に配置されると、長期時間アイドリング状態のままであることが多い。もし、オペレーターがそれらを複数台、遠隔でシームレスに操作できるならば、1日の間に複数の現場の作業を行うことが可能となり、それにより労働効率も最大限に引き上げることができる。実際、KDDI、大林組、NECの3社の共同により、5Gを利用した建設機械の遠隔操作の実証実験が大阪で行われている。


輸出度の高い後者のカテゴリーに属する産業では、自動車分野が5Gを適用したユースケースをいくつか提示している。特に自動走行車は、他の車両や建物、歩行者など周囲の状況を常時モニタリングするのに、5GによるV2X(Vehicle-to-Everything)通信に依存する。自動走行車がもたらす安全性の強化や交通の最適化といった主なメリットは、日本の交通事情を考えれば限定的なものにとどまるかもしれないが、世界中で自動運転が急速に現実化しつつある今日、日本の自動車メーカーがTeslaのような重要な進歩を成し遂げている外国企業と伍していこうとすれば、この領域の開発に優先的に取り組まなければならない。トヨタは2017年からNTTと提携して自動車の接続機能を4Gから5Gに格上げし、自動運転への道を開拓している。

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