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生産現場、仕事場、家庭におけるロボティクス

Updated: Feb 2

定義、創出できる価値

この分野の開拓者であり、現在もリーダー的立場にある日本は、1970年代から工場にロボットを供給してきた。ロボットと言っても、必ずしも知能を備えた人間の形をしているわけではなく、実際は3軸の動作をプログラム制御し、一連の複雑な指示を自動実行できる機械である。過去数世紀に渡って、様々な形態や機能が考案されてきた。


三菱電機、オムロン、ファナック、安川電機といった企業は、日本が産業用ロボットの製造でナンバーワンの地位を獲得するのに貢献し、現在、日本第2位の規模を持つロボティクスサプライヤーのキーエンスは時価総額1000億ドルを達成した。しかし日本は、長年世界一位を保持してきた、従業員1人当たりのロボット台数の割合、という指標において、近年シンガポール、韓国、ドイツにその座を奪われた。また、高度ソフトウェアの開発が重要視されるようになってきており、Universal Robots、Boston Dynamics(ソフトバンクグループ傘下)、Rethink Roboticsなどの海外企業が高い価値を持つ競合相手として現れている。


ロボットは商業的成熟度の違いによって4種類に分類できる。


単独型ロボット: 最も伝統的な形式の産業用ロボットであり、個別操作でのタスクをプログラミングできる固定マニピュレーターである。多くの場合、安全な柵や装置が設置される。

インテリジェント無人搬送車(AGV): AGVは環境に合わせて自律的に走行し、物流のタスクを実行できる移動型ロボットである。


協働ロボット(cobot): 安全機能を内蔵したロボットであり、特別な安全装置無しに人と並んで作業することができ、繊細さや正確さを要するタスクや労働集約的タスクを支援する。


超小型ロボット: 人体内を含む狭い空間で「非侵襲的」に動作でき、自律制御的な「群」として展開されることも多い小型ロボットである。4種類のロボットのうち、この超小型ロボットはいまだ商業的成熟度に達していない。


今までロボットが製造工場で最も広く採用されてきたのは、主に以下のような理由からである。


安全衛生: 重い荷物を持ちあげる重労働や、高所や有毒物質に近い場所での危険な作業は、作業者を健康被害、大怪我、あるいは死亡事故といったリスクに曝す可能性がある。半自動の機械を導入しても、適切に制御しなければ機械自体がリスク要因となるが、ロボットを配置して人間の代わりにそうした危険なタスクを担わせたり、作業者を補助させたりすれば、人間が事故に見舞われるリスクは大幅に軽減される。例えば、福島の原子力発電所で炉心溶解が発生した際、事業者である東京電力は高濃度の放射線環境での状況調査に遠隔制御ロボットを投入した。


品質: ロボットは、決められた精度、すなわち、完璧に近い精度で反復的タスクを実行することに優れている。大量生産用の組立ラインでロボットが製造する製品からは廃棄や再作業を要する不良品が出ないため、歩留まりも大幅に上昇する。


運用効率: 自動化を適用すると、機械操作に必要な常勤従業員の人数を減らせるため、大きな費用節減となる。ロボットはシフトによる入れ替えや休息なしに継続的作業を実行でき、一方で作業者は監視や経験を要する作業に従事できる。


柔軟性: 移動性、モジュール性、環境認識力に優れたロボットは、従来の製造機械よりも、さらに柔軟に使用できるようになってきている。新規の製造要件に対してもソフトウェアや部品の変更で再構成でき、大きな資本投資や工場現場の再設計を必要としない。


現況

ロボティクスのユースケースは、産業用とプロフェッショナルサービス用の2つのカテゴリーに大別できる。


前者の産業用カテゴリーはさらに、組立ラインで製造機械に反復的タスクを実行させる場合と、安全器具なしにロボットに作業者と同じ場所で一緒に作業させる場合に分けられる。国際ロボット連盟(IFR)の世界ロボティクスレポートによれば、2018年の世界のロボティクスハードウェア市場は64%が産業用であった。産業用ロボットの設置は2014年から2019年までに年平均11%の増加を見せ、稼働台数は280万台に及んでいる。日本は世界第2位の産業用ロボット市場であり、工業生産の自動化では既に高レベルに達しているが、設置台数の増加率にはなおも力強さが見られる。


自動車産業は、全設置台数の約28%を占めるほどロボティクスを積極的に採用している。産業用ロボティクスの若きリーダー企業であるUniversal Robotsは、PSAグループやBMWなど自動車メーカー数社と提携して組立ラインにコボットを展開している。PSAグループは協働ロボットアームを活用して初年度に20万台の車を組み立てた。不具合の発生はゼロとなり、大幅なコスト削減と化学物質への作業者の暴露を排除することができた。


エレクトロニクス産業は、電子部品の需要が堅調なおかげで、ロボティクスの2番目に大きな顧客となっている。Appleは iPhoneを個別部品に解体し素材回収を自動で行う「Daisy」というロボットを開発した。「Daisy」は1時間当たり200台、年間換算で120万台を分解でき、2018年には4万8000トン分の電子部品がゴミとして埋立地に行かずに済んだ。


後者のカテゴリーであるプロフェッショナルサービス用には、倉庫内、ヘルスケア、小売など多様な商業用途が含まれる。2018年にはサービスロボットがロボティクスハードウェア市場の36%を占め、その割合は2025年までに約半分に達する勢いである。サービスロボティクスの市場は比較的若いものの、既に様々なセグメントに断片化しており、既存の大手企業とスタートアップやテック系企業が共存している。この分野の中心は米国だが、日本は世界で4番目のサービスロボット製造国となっている。


物流ロボットは、倉庫、ホテル、オフィス内などで資産を迅速かつ効率的に活用できるよう支援する。2019年は新型コロナ感染症のパンデミックをきっかけとして電子商取引が活況を呈したこともあり、物流ロボットの売上シェアは全体の最大となる43%を占めるに至った。AethonのTUGのような工場・倉庫用の無人搬送車(AGV)が普及するにつれて、他の仕事場でも興味深いソリューションが現れている。例えば、Saviokeのデリバリーサービスロボット「Relay」は、文書、供給品、あるいは医学的試料さえも安全に配達できるようにカスタマイズすることができる。


患者への影響を重視するイノベーションへの関心の高まりは、ロボット支援医療技術の商業化を後押ししている。例えば、Strykerのロボットアーム支援技術は、3DのCTをベースにした手術計画ソフトウェアと、その計画に沿って正確に動作するロボットアームを組み合わせることで、人体組織の不要な損傷や手術侵襲を排除し、股関節や膝関節の手術で良好な成果を挙げている。


世界と日本のいずれにおいても、現在のユースケースに対して、ロボットによる自動化の採用が増加し、改良が進むとともに、新規分野でも新たな適用事例が見出されることだろう。ロボットによる自動化の成長を促す4つの主な要因としては、以下が挙げられる。


経済性の改善: 多くの国で労働コストの増大とロボット価格の低下が生じており、自動化が一層望ましくなってきている。工場内の特定のタスクを実行する人件費と比べても、今や1年足らずでロボット投資が損益分岐点に達するケースも少なくない。その上、絶えず効率を改善し、関連コストの削減を推し進めるならば、以前よりも頻繁に機械交換を行う動機付けにもなる。


労働力不足: 国の経済が発展すると、より良い賃金を得られる層が拡大し、安全な仕事の選択肢も増えるため、反復的な肉体労働をしようとする人の数は減っていく。日本の場合、人口の高齢化に伴い、そうした重労働をロボットに担わせる需要が必ず増大する。


自動化の対象範囲の拡大: 技術的進歩によって、ロボットの能力、安全性、自律性が拡大しており、今後、コスト効率良く自動化できるタスクの範囲も広がっていくと思われる。


高い柔軟性: 製造の多角化を図るには、改めて高額な工具を調達する必要もなく、また工場の生産現場の利用効率を自在に最適化できる柔軟性の高い製造体制の確立が必要である。複数のラインに対してプログラム設定が簡単に行えるマルチスキルロボットは、多角化に向けたコストの削減や準備の迅速化に有用である。


今後の技術発展の方向性

ハードウェア面の進歩によってロボットの軽量化、縮小化、耐久性の強化が進んでいるが、ソフトウェアの技術革新にも、ロボティクスの大きな飛躍を可能にする余地がある。この面に注目すると、発展領域として以下の3つが主に挙げられる。


自律性の向上: AIの適用によってロボティクスは、簡単な規則に基づく制御やプランニングソフトウェアの段階から、世代を飛び越えるような飛躍的発展を遂げている。コンピュータービジョンや推論に強化学習や他の最先端の機械学習手法を活用することで、様々な空間での対象物認識、衝突の回避、よりスムーズな移動といったように、ロボットの能力が大幅に高まることが期待される。産業用IoTとクラウドアナリティクスを基盤に、ロボティックフリートを展開し、相互通信を通じて効率性を最大化させたり、クラウドに状態報告をアップロードしてより緻密な予知保全を実行したりすることが可能になるだろう。


プログラミング能力の向上: 今までは、ロボットに命令を出すのに膨大なソフトウェア機能が必要であり、さらにそれらを他の機械向けに再プログラミングしようとすれば、多大な時間を要する上に、適用もその機械に限定された。これからは、「低コード」「コードなし」のプラットフォームによって直感的なロボット・コマンド・インタフェースの作成が可能になり、作業者は機械操作の調整を短時間で行えるようになるだろう。ArtiMindsやdrag&botなどのスタートアップはこのようなシステムを提供中であり、今後、多くのソリューションが登場してくると予想される。


HMI(人間と機械のやり取り): コボットが工場内外に普及していく中、HMI技術の発展や「ソーシャルロボティクス」の技術的進歩によって機能や性能の向上が進み、新たな商業用途が見出されていくことだろう。特別な訓練を受けていない作業員や、顧客、通りがかりの人とのやり取りを簡単に行えるようにするには、多様な文脈で人間の言葉を理解、生成する能力を持つロボットを生み出すことが必要である。人間の感情を読み取ることや「グランディングによる言語獲得」(周囲の環境に照らして単語の意味を推論するタスク)を可能とする「情動ロボット」は、まだ学問的研究の範囲にあるが、今後10年間で確実に進展を見せるだろう。


将来の主要な適用事例

必要な専門知識のレベル、予測可能または不可能な身体的作業の範囲、利用可能なデータ、実行の必要度を検討することで、様々な分野における自動化の可能性を評価することができる。最大の可能性を示すのは宿泊や食事関連のサービスである。その理由は、ホテルの運営、食品の準備、手順の決まった清掃など多くの作業が予測可能なものだからである。次に可能性が大きいのは、自動化が可能な身体的作業と大量のデータが存在する製造と物流である。4番目は予測しがたい作業がより多い農業であり、そうした作業をこなすには器用なロボットが必要である。



特に産業用ロボティクスを眺めると、難易度は最高レベルながら大きな価値を秘める開発分野の1つに「冶具レス溶接」がある。従来の溶接ロボットは、適切に溶接するために人の手で部品を冶具に載せたり降ろしたりする必要があったが、新規の溶接ロボットは1つのアームで部品を自動的に掴み、もう一方のアームで溶接することができる。安川電機が開発したロボットは「オンザフライ」溶接ができ、スループットを大幅に改善させた。


ロボティクスと他のデジタル分野とのシナジーの中に、日系企業が工業の様々な領域で自動化の効果をさらに引き上げられる可能性が示唆されている。例えば、溶接、塗装、組立などの適用事例では、機械学習を利用することで、予知保全の運用精度や効果を向上させることができる。クラウドインフラを使えば一元的な情報管理システムの構築も可能であり、それを通じて、ロボットが問題の報告や解決を行ったり、自ら計画を組み立て、他の機械と調整したりすることができるようになる。


日本のサービスロボティクス市場はまだまだ成長の余地があり、上記に挙げた技術的進歩や、労働力不足、人口の高齢化といった問題に促されて、現時点から2035年までの間に年平均成長率14%と大きく成長することが予想されている。


老年人口への支援として、WHILLのロボット車椅子のような移動ロボットのユースケースや、病院・診療所のヘルスケアに関連したソリューションなどの増加が見込まれている。


また、設備管理への適用にも将来性がある。現在、最も一般的なユースケースはiRobotで人気が高まっている清掃ロボットであるが、ALSOKのREBORG-Zのように、施設の見回り、サポートの提供、異常の検知などが行えるセキュリティロボットにも興味深い可能性が開けている。2020年にトヨタは、食器を食洗器に入れたり、掃除したりといった様々な家事を支援する天井設置型ロボットアームのデモを披露している。


物流ロボティクスも、電子商取引の成長を背景に自動化の大きな可能性があることから、関心が高まっている市場である。しかし、ピッキング、プレイシング、返品処理など、物流現場で自動化が期待されるタスクの多くは、現在のところ労働集約的であり、その実現には高度な技術が必要とされる。海外ではドイツのMagazinoなどの新規企業が専門的ソリューションの開発に取り組み始めているが、日系企業も競争的に優位な位置にいる。高度な無人搬送車(AGV)やロボットアームに高度なマシンビジョンソリューションを組み合わせれば、この領域で競合できる強力な製品を生み出せるだろう。


消費者相手という性質や用途の幅広さ、訓練を受けていないユーザーベースといったことを考えると、サービスロボットの前には、期待される機能、扱いやすさ、安全性といった面で一層高い障壁が待ち受けている。日常使用で高い評価を得られるロボットを作るには、ユーザーの行動を詳細に理解することや、時間やコストをかけ過ぎずに迅速な市場投入を反復できる能力が必要となるだろう。日系企業が最大限の成功を収めるためには、デザインシンキングの手法やアジャイルな考え方を取り入れながら、ロボットの設計や制御ソフトウェアの開発に取り組むことが求められることだろう。

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