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Digital Japan 2030

付加加工(3Dプリンティング)とデジタル製品

Updated: Feb 24, 2021

定義、創出できる価値

ぴったりと合った義足、クラシックカーの交換部品、自分専用に作られたイヤフォン。大量生産が中心を占める時代にあって、カスタマイズすることは贅沢であり、特別な費用と時間を要することである。ところが、付加加工はこうした認識をひっくり返し、製品の設計・テスト・製造方法に革命を起こそうとしており、その影響は消費者向けの製品をはるかに超えて拡大する様相を見せている。


付加加工は、デジタルモデルから3次元のモノを造形するものであり、3Dプリンティングとしても知られている。デジタルモデルは、現在拡大しているデジタルマニュファクチャリングの核となるものである。デジタルマニュファクチャリングのエコシステムは様々な技術を集結させ、実世界のモノからモデルを作成し(3Dスキャン)、それを操作し(CAD: コンピューター支援設計)、現実のモノへと変換する。3Dプリンティングはこの最後の段階の一例であり、スピード、効率性、柔軟性といった利便性から関心が高まっている。


付加加工に利用される技術はいくつかあり、それらの特徴は、最終的なモノへと造形、統合するのに使用される材料や手法によって異なる。すべての3Dプリンティング技術に共通するのは、何もない段階から始まることであり、そこに最終製品と同量の素材を一層ずつ付加してことからまさしく「付加加工」という名称が付けられ、レーザーによる切削や彫刻のように、1つの材料の塊から徐々に除去して最終形状に仕立てる除去加工と対比されている。


付加加工の一番のユースケースはプロトタイプの作成と概念実証であり、その次に冶具の作成が続く。宝石や、高値で小量の特別部品などの生産も増加してきているのに対し、大量生産への適用は近年始まったばかりであり、今なお比較的ニッチな領域である。


3Dプリンティングに使用される材料は、樹脂の他、金属や合金が最も一般的である。前者はプロトタイプや性能要件が低い最終製品に最もよく使用される。後者は工業用部品の最終生産に使用されている。金属と樹脂以外の材料、例えば、セラミック、レイウッド、紙、ワックス、食物、バイオセルなどは、現在、比較的小規模ながら専門性の高い分野に使われている。


3Dプリンティングの利便性は4点に集約できる。製品性能の向上、カスタマイズの容易さ、市場投入時間の短さ、および部品欠品・欠番への対応である。


製品性能の向上: 部品の軽量化、部品数の削減、新機能の追加などを通じてより高性能な製品を製造することができ、製品性能の向上を図ることができる。


カスタマイズの容易さ: 3Dプリンティングはカスタムメイド商品の製造を効率的に行えることから、費用対効果に優れたカスタマイズが可能になる。そのため、こうした特徴が産業分野への適合性を高め、消費者分野では顧客満足度の向上に寄与することになる。


市場投入時間の短さ: 製造プロセスの柔軟性や効率性を向上させ、サプライチェーンを大幅に簡潔化するのに加え、プロトタイプ作成と設計調整を迅速に行えることから、市場投入時間が短縮化される。


部品欠品・欠番への対応: 油田掘削装置、飛行機、軍装備品など長期間継続的に使用される資産は、製造中止やサプライヤーの倒産などでスペア部品が入手できなくなるといった問題にしばしば直面する。その結果、かなり高額な装備品を毎年すべて交換することが必要になったりする。3Dプリンティングによるカスタム部品の製造は、こうした問題をなくし、長期的に大幅なコスト削減を実現できる可能性がある。


現況

付加加工の初期の事例は1970年代に特許が取得されたことにまでさかのぼり、1986年には3Dプリンティングを最初に商用化させた3D Systemsが創立された。2019年には付加加工を展開する企業数は 世界全体で1300社に達し、2020年時点の市場規模は1.6兆円と見積もられている。


3Dプリンティングのバリューチェーンを見ると、いくつかの異なるビジネスモデルが各産業で適用されていることが分かる。原材料から製品に至る一連の流れには、材料のサプライヤー、装置のサプライヤー、ソフトウェアサプライヤー、受託サービス事業者(設計のみの支援、または生産を含む全般支援を提供)、そして複数の事業を統合して提供する事業者が関わっている。さらに、剰余材料の再利用を専門にするリサイクルサービス事業者なども存在する。

ソフトウェアは装置ほど「目立つ」わけではないが、3Dプリンティングのバリューチェーンにおける主要構成要素の1つであり、3Dプリンティングの普及や品質の継続的改善を促進する上で重要な存在である。



競合状況を見ると、付加加工で定評を確立したグローバル企業が20%を占め、42%は従来からの工業系企業、38%は比較的新規の市場参入者である。


企業数から見れば、3Dプリンティングの主要国は米国とドイツであり、グローバル企業の55%はヨーロッパを拠点としている。アジアのグローバル企業は13%に過ぎず、市場への浸透はいまだといった段階である。DMG森精機、ヤマザキマザック、松浦機械製作所などの日系企業は付加加工と切削加工を合わせたハイブリッド機械を開発し、金属製造に注力している。


2017年時点における日本の3Dプリンター市場は152億円だった。これは世界市場の4.3%に過ぎないものの、2021年には9%の年間成長が予測されている。 今まで日本ではこの領域の成長が比較的遅かったが、要因としては、3Dプリンティングに対する社会の認知度が低いことや、産業用のユースケース情報に触れられる機会があまりなかったことが挙げられる。製造分野、特に多くの中小企業が支える成形・造形の分野で障壁となっているのは、産業用3Dプリンティングの機器の費用が高いことや、カスタマイズに時間と知識が必要なことである。


先に述べたように、付加加工が最もよく適用されているのはプロトタイプ作成であるが、研究開発以外にも、3Dプリンティングの産業向けユースケースは下記が挙げられる。


航空宇宙: 3Dプリンティングを利用することで部品の軽量化や材料の無駄の排除が可能となり、コスト削減や整備に要する時間の短縮化が進んだ。2017年にGE Aviation は、付加加工で設計と製造を行う次世代低価格タービンエンジン(FATE)プログラムのプロトタイプ試験を完了した。これが実用化されれば、現行のエンジンと比べて燃料消費量が35%、製造・整備費用が45%削減される。他方で、Airbusは2020年に、Stratasysが提供する付加加工ソリューションを活用してウルテム(ULTEM)レジンを使用した機体部品の製造を標準化すると発表した。


自動車: 自動車業界の企業は、車両の外観をカスタマイズすることや、特殊部品の調達時間を短縮化することに付加加工を利用している。Volvo Construction EquipmentはA25G/A30Gダンプトラック用の機能的プロトタイプを3Dプリンティングで作成し、工具費を大幅に削減した。それによりリードタイムが90%短縮化され、工具への投資も92%減らすことができた。


ヘルスケア: ヘルスケア分野では、義歯の作成と修復が付加加工の最も一般的な適用事例に含まれる。義歯の作成コストが50%削減され、作成時間も以前の2~3週間から2~3日にまで短縮された。さらにこの技術によって、患者の口により適合するよう複雑な歯の形状をシミュレーションすることが追加料金なしで行えるようになった。その他のユースケースとしては、カスタムメイドの歯列矯正具、補聴器、人工膝関節などがある。


石油・ガス: スペア部品の製造に3Dプリンティングを用いており、設計が簡単に行えるようになった。Shell Globalは最深海域に設置する設備の設計段階で、3Dプリンティングによるブイのプロトタイプを活用した。その結果、規制当局の認可取得に向けて機能的概念実証を策定する際に、繰り返される検証作業を迅速化することができた。


以上のような産業用ユースケースは、付加加工の価値を証明したり、重要技術を広めたり、必要な資本を確保したりすることに大いに貢献している。米国では、特に航空宇宙やヘルスケア分野においてBoeingやGEが付加加工の代表的な企業となっており、付加加工技術の開発やサプライチェーンへの普及といった面で大きな影響を与えている。日本でも3Dプリンティングの採用を拡大するには、主要メーカーによる同様の推進力が必要だろう。


今後の技術発展の方向性

目下のところ、この技術の明確な勝者はいないが、3Dプリンティングは、スピード、精度、コスト効率といった面で着実な改善を遂げている。これらの技術革新は、Carbon、Desktop Metal、HPなどの企業が牽引している。加えて、利用可能な材料も、樹脂や金属の中でバリエーションが増えており、その他のより稀少な素材も増えている。


ソフトウェアやプロセスの面では、定評を確立したソフトウェアプラットフォームがないことが、大規模な採用の障壁となっている。しかし、バリューチェーン横断的な付加加工企業の台頭に合わせて、一気通貫型のプラットフォームが今後徐々に登場してくる可能性が高い。


将来の主要な適用事例

産業用3Dプリンティングの適用は、航空宇宙、ヘルスケア、コンシューマー、自動車といった分野に集中すると予想されている。航空宇宙とヘルスケア分野では、既に付加加工をサプライチェーンに統合する動きが始まっており、その他の産業分野も投資能力に応じて追随する可能性が高い。


技術的な改善を前提に、3Dプリンティングの採用は下記の4つの主な要因によって促進されるだろう。


1つ目は、樹脂と金属素材の価格が2025年までに50~60%下降すると予想されていることであり、付加加工のコスト効率が改善されることで、採用の促進が見込まれる。


2つ目は、製造効率を追求する業界のニーズに、3Dプリンティングが多くのケースで応えられることである。ラピッドプロトタイピングやオンサイト生産は、顧客の無駄を削減しつつ、リードタイムの短縮を可能にする。


3つ目は、3Dプリンティングの機能を強化する余地があることから、多くの企業がソリューションとして興味を持つようになることである。現在の3Dプリンティング技術でも、設計や組立の時間を短縮しながら、一層複雑で軽量な構造を作成することができる。


4つ目は、今後マスカスタマイゼーションの需要がこの技術の採用を後押しすることである。調査からも、衣服やアクセサリーなど受注生産(BTO)品に対しては、顧客も忍耐強く待ち、特別料金も積極的に支払うことが明らかになっており、さらにはネット・プロモーター・スコア(NPS)も高い。


対して、3Dプリンティングの採用が工業生産に広がる上で障壁となっているのは、定評のある、完全に一気通貫な技術プラットフォームが存在しないことである。企業にとって採用の鍵となるのは、さらなる技術的進歩ではなく、何度でも再現可能な品質を産業レベルで実現するプロセス管理手法が確立されることである。


世界で付加加工を大規模に活用できている企業はわずかしかない。例を挙げれば、医療品のStryker、小売のAdidas、航空宇宙のBoeing、そして複数の業界をまたぐGE Additive と Siemensである。成功するための共通レシピは特定の製品に特化したビジネスケースを作成することであり、製造の基盤となる専用工場を設計することである。


今後カスタマイズが求められる製品の量が増加していくことを考えると、どの企業にも将来的な製造プロセスの青写真を描く様々な機会がある。その実現には、3Dプリンティングに特化した企業と経験豊富なメーカーが協働し、いかにして相乗効果を生み出せるかが鍵となるのかもしれない。


日本は世界的に重要な製造業を保持していることから、付加加工でも存在感を高められる余地が十分ある。日系メーカーが3Dプリンティングの付加価値を獲得しようとするならば、3Dプリンティングの国際的サービス事業者と提携し、その世界クラスの加工技術を、業界標準となっている日本式の製造プロセスと組み合わせて活用することが戦略の1つとなるだろう。

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